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1961年にソ連の軍人ガガーリンが人類で初めて成功させてから、現在では当たり前のように行われている有人宇宙飛行。

しかし、人間の宇宙飛行の安全性を確認するために数々の動物が犠牲になったことを忘れてはいけません。

その代表的な動物が、地球軌道上を周回した初めての動物となり、壮絶な最期を迎えた犬のライカです。

ライカに渡されたチケットは生きて地球に帰ってくることは100%不可能な地獄への片道切符。

今回は宇宙開発を語る上で決して避けて通ることのできない、宇宙犬ライカにまつわるあまりにも壮絶で悲しいエピソードをまとめてみました。

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①モスクワの野良犬だったライカ

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「革命記念日までになにかインパクトのあるものを打ち上げてくれ。」

当時、ソ連の共産党の最高指導者だったニキータ・フルシチョフは、ソ連の革命記念日まであとわずか1か月に迫ったある日に指示を出しました。

そこで決まったのが犬を打ち上げるという計画。

当初は犬ではなく、人間により近いサルも打ち上げの候補に挙がっていましたが、サルは風邪にかかりやすく、じっとしているのが得意な動物でもありません。

そのため狭い宇宙船のカプセルの環境に耐えられず、生体反応を見るためのコード類を引きちぎってしまう可能性が高い。

それに比べて犬はサルに比べてしつけがしやすく、飢えにも強い動物です。

さらにはサルに比べて宇宙船のカプセルに入った時の見栄えも良いという理由で犬が選ばれました。

タイムリミットが1か月もない中で犬を打ち上げて地球軌道上を飛行させるという、前代未聞の計画には関係者の誰もが困惑の色を隠せませんでした。

「まずはプロジェクトに適した犬を探さなければならない。」

一刻も早く見つけて訓練を開始しなければ、革命記念日までにはとても間に合いません。

しかし宇宙船に乗せる犬にはいくつかの条件がありました。

体長は35cm以下、体重は6kg以下、賢くおとなしい、白か明るめの毛色、そして最も重要なのがメスであること。

狭い宇宙船のカプセル内ではまともに動くことができるスペースはありません。

そのためオスよりも排泄の動きが小さいメスである必要があったのです。

こうして連れてこられた野良犬のうちの一匹、それがライカでした。

ちなみに打ち上げられる犬の名前は当初は「クドリャフカ」とされていましたが、打ち上げ直後の報道ではソ連を含め世界中で犬の名前は「ライカ」であるとされました。

②急ピッチで作られた宇宙船

宇宙船の開発は本来、あらゆる可能性を考慮して進められるべきものであり、長い時間をかけて打ち合わせを重ね、綿密で繊細な作業を行わなければなりません。

しかし開発チームに許された時間はたったの1か月。

革命記念日に間に合わせることが絶対条件なので急ピッチで宇宙船を作り上げるほかありません。

図面が出来上がった段階ですぐに宇宙船の製造チームに設計図を渡し、早急に製造に着手するという慌ただしさ。

こうした過酷な労働環境の中、とりあえず完成した宇宙船がスプートニク2号でした。

その全体サイズは、高さ4.3m、底部の直径2.3m、重量504kg。

軽自動車よりも一回りも二回りも小さいこの宇宙船でライカは宇宙へ旅立たなければいけなかったのです。

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③過酷な訓練

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ライカが実際に入らなければならないスプートニク2号内部の気密カプセルは、半径32cm、長さ80cmほどのスペースしかない、かなり窮屈なものでした。

この環境に慣れるために必ずクリアしなければならなかったのが、小さいスペースに長時間じっとしている訓練です。

小さな観察窓が付いたカプセルにライカを閉じ込め、日を追うごとにカプセルを小さくしていく。

最初は恐怖やストレスで吠えたり泣いたりしていたライカも段々慣れておとなしくなっていきます。

すると今度はさらに小さな空間、ほとんど体を動かすことができない広さのカプセルに閉じ込められるという、ライカにとって想像を絶するほど辛く苦しい訓練の日々。

その他にも、わずかな立ち座りとほんの少しの前後移動しかできない場所で機密ヘルメットを被らされ、さらにチェーンでつながれた状態で最長20日程度も拘束されるという訓練や、宇宙船の強烈な加速に慣れるために遠心分離器に入るといった訓練などが行われました。

大気圏外の環境にどれだけ対応できるかを調べるためのセンサーを埋め込む手術もライカにとってはかなりのストレスだったかもしれません。

こうしてライカは死ぬためとも言える訓練を一つずつこなしていきます。

④スプートニク2号の設備の問題点

短期間で宇宙船を完成させるためには宇宙船にかかわる色々なシステムを簡略化する必要があったので、食事は1種類だけを与えることに決まりました。

ライカに課せられたのは、7日間にわたって地球軌道上を周回するという条件のミッション。

体重を減らすことなく8日間生存し続けることができるメニューである必要があったため検討の結果、パンくず、粉状肉、牛脂肪に水とゼラチンを混ぜたものをゼリー状にして食べさせることになりました。

その量は1日たったの100g。

しかし結論から言えばライカはこの食事すらも満足に食べられないまま死んでしまうことになります。

こうして完成したスプートニク2号ですがその設備の最大の問題は、大気圏に再突入するための設備が備わっていなかったこと。

そもそもスプートニク2号が打ち上げられた1957年当時、まだ大気圏再突入のための技術自体が確立されていませんでした。

スプートニク2号は無事に宇宙に打ち上げられたとしても、地球に戻るために大気圏に侵入すれば100%壊れてしまう設計。

つまり、ライカは打ち上げの成否にかかわらず、発射された時点で死ぬことは避けられない。

せめてもの救いは、7日間のミッションを終えた後には毒入りの食事で苦しまずに死ぬことができることだけ…。

スプートニク2号はライカにとっては最先端の宇宙船などではなく、棺そのものでした。

⑤宇宙へ打ち上げられたライカの早すぎる死

スプートニク2号が打ち上げられる1957年11月3日、打ち上げまであとわずかというところでライカが入っている気密カプセルの圧力を変動させる職員がいました。

ライカはおとなしく賢い犬。

そのため宇宙船に乗せられて死ぬことになってしまったことを不憫に思う関係者も少なくありませんでした。

この職員の狙いは、打ち上げ予定日の3日も前に気密カプセルに閉じ込められてゼリーしか口にしていなかったライカに水を飲ませてあげること。

この時点でカプセルを開けてしまうことは打ち上げの実現自体に影響を及ぼしかねないほど危険な行為でしたが、責任者のコロリョフは自身もライカを可愛がっていたこともあり許可することに。

注射器を使って食事用のトレイに注ぎ込まれた水で喉の渇きを潤すことができたライカは、絶対に戻ることのできない宇宙に爆音とともに飛び立っていきました。

この時ライカにかかっていたG(加速度)は最大で5G。

これは戦闘機が急旋回した時とほぼ同じで、この時の脈拍は通常の3倍ほどのおよそ260まで跳ね上がっていました。

そしてライカは世界中が期待と共に見守る中、無事に地球軌道上に到達。

地上から遥か1,600kmも上空の宇宙で7日間の、文字通り命をかけたミッションを終えたライカは打ち上げから10日後に毒入りの食事で安らかな最期を迎えた…

…と、およそ50年もの間、人々に信じられていました。

しかし真実は全く違うものであったことが、スプートニク2号の打ち上げにかかわったディミトリ・マラシェンコフによる2002年の論文により明らかになります。

計画通り打ち上げられて地球軌道上を2,3周し関係者たちがホッとした直後、打ち上げからわずか5,6時間経過後に断熱材のトラブルにより宇宙船内の気温は摂氏40℃以上にまで上昇。

生体反応を示すセンサーの値から、地上でもライカがパニックになり、もがき苦しんでいるのがわかる状態でした。

それから1時間後、気密カプセル内の異常な高温と極度のストレスにさらされ続けたライカの生体反応は、すでに確認することができなくなっていました…。

そして打ち上げから5か月以上経過した1958年4月14日、ライカを乗せたスプートニク2号は大気圏に再突入し、崩壊したのです。

⑥終わりに

©2009 Wikipedia

1961年、ボストーク1号に乗ったガガーリンが有人飛行を成し遂げるまで、動物による宇宙船の打ち上げはただ単に動物が生存することができるかどうかを確認する目的で行われていました。

そのために犬だけでなく、サル、チンパンジー、ラット、ネコ、カメなど、さまざまな動物が宇宙へ打ち上げられ、帰ってくることのできなかった動物も少なくありませんでした。

ライカの悲劇の後、1960年にスプートニク6号で宇宙に打ち上げられたムーシュカもそのうちの一匹です。

スプートニク2号乗船のためにライカと共に訓練された3匹のうちの1匹だったムーシュカ。

わずか1日地球軌道上を周回した後、翌日には大気圏の再突入に失敗し、生きて帰還することはできませんでした。

スプートニク6号より前に打ち上げられたスプートニク5号に乗せられたベルカとストレルカが無事に地球に帰還し、地球軌道上を周回して生きて帰ってきた初めての動物となっているにもかかわらず、ムーシュカが乗る予定だった2号、6号はどちらに乗っていたとしても帰ってくることはできなかったんですから残酷ですよね…。

私たちが青空に持っているイメージは、清々しさとか、爽やかさとか、開放感とか、ポジティブなものが多いと思います。

だけど、もし見上げた青空のはるか向こうの宇宙まで飛ばされて、そこで死ぬことがわかっていたらそれは想像を絶する恐ろしさでしょう。

ライカは犬なので自分にそんな恐ろしい未来が待っているとは思わずに済んだのがせめてもの救いだった…と思おうとするのは人類のエゴなんでしょうね…。

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