都会的なメロディでおしゃれな雰囲気を漂わせた、大人向けの洗練された音楽。

それがAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)です。

明確なカテゴリー分けは難しく、アダルト・コンテンポラリーというような言い方をされることもあります。

ジャズやブルース、ソウルなどをベースにした曲が多いAOR。

どちらかと言えばスローテンポの甘い曲に名曲が多いので、雑食だけど特にバラードが好きな私がよく聴いたジャンルのひとつです。

日本では竹内まりやの「マンハッタン・キス」のイントロが私が好きなAORによくある音色そのもので、オシャレな都会の夕暮れ…目をつぶって聴くとそんな映像が脳裏に広がる素敵なシンセサイザーのイントロです。

ちなみに海外ではAORと言えば、アルバム・オリエンテッド・ロックとしての認識が一般的。

1曲ごとの曲の良さよりも、アルバム単位でじっくり楽しめることを前提に作られた作品のことを指すんですね。

  • 日本・・・Adult Oriented Rock=アダルト・オリエンテッド・ロック
  • 海外・・・Album Oriented Rock=アルバム・オリエンテッド・ロック

ということで今回は、夏のそよ風を感じさせる爽やかな曲から、都会のビル群の夜景を思わせるようなムードのある曲まで、おすすめの洋楽AORをまとめました!

① After the Love Is Gone (アフター・ザ・ラヴ・イズ・ゴーン) / Airplay (エアプレイ) 【1980年】

Airplay (エアプレイ) - Romantic(ロマンティック)
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このアルバムはAORを代表するアルバムのひとつ。シカゴの「Hard to Say I'm Sorry(素直になれなくて)」、セリーヌ・ディオンやアラジンのテーマで有名なピーボ・ブライソンらがボーカルを務めた「Love Lights the World」、カナダ版ウィー・アー・ザ・ワールドと言われたノーザン・ライツの「Tears Are Not Enough」を聴いて感動した私。

それがきっかけでデイヴィッド・フォスターがプロデュースする曲にハマっていってたどり着いたアルバムです。この曲は当時はまだ無名に等しかったデイヴィッド・フォスターやジェイ・グレイドンがEarth, Wind & Fireに提供した曲のセルフカバー。

シングルとしてEarth, Wind & Fireが発表したバージョンは全米2位、全英4位の大ヒットを記録。エアプレイのセルフカバーバージョンはタイトルと歌詞が一部変更されています。ジェイ・グレイドンによると、Earth, Wind & Fireのバージョンの方がコーラスのキーが高く、一人で歌うのは難しいらしいです…。

② Stay With Me (ステイ・ウィズ・ミー) / Bobby Caldwell (ボビー・コールドウェル) 【1989年】

Bobby Caldwell (ボビー・コールドウェル) - The Best (ザ・ベスト)
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最初は黒人の歌手だと思い込んでしまっていたくらい伸びやかなハイトーンボイスを持ったアメリカのミュージシャン。あのボズ・スキャッグズのヒット曲「ハート・オブ・マイン」を提供した人でもあります。そしてこの「ステイ・ウィズ・ミー」も、シカゴのボーカリストで「素直になれなくて」のボーカルを務めていたピーター・セテラのソロ用に提供した曲のセルフカバーです。

この曲は透明感がずば抜けている、AORの名曲中の名曲。ピーター・セテラのバージョンは1987年に日本の映画、竹取物語の主題歌になったこともあり、オリコン洋楽シングルチャートで4週連続1位を記録しています。個人的には最初にハマったボビーのバージョンの方が思い入れはあるんですけど、どっちも聴いて比較すると面白いかもしれないですね!

ちなみにボビー・コールドウェルと言えば、たばこ「パーラメント」のCMシリーズ。1990年代に放映されていたこのCMシリーズはニューヨークの夜景をバックにボビーのおしゃれでムーディーな曲が流れる内容で、たばこは好きじゃないけどこのCMは好きだったって人も多いみたいです!

③ Nothing's Gonna Change My Love for You (変わらぬ想い) / George Benson (ジョージ・ベンソン) 【1984年】

The Ultimate Collection (アルティメット・コレクション) - George Benson (ジョージ・ベンソン)
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アメリカ出身のもともとはジャズギタリストだったジョージ・ベンソン。この曲はホイットニー・ヒューストンの名曲「グレイテスト・ラブ・オブ・オール」や「オール・アット・ワンス」をプロデュースしたマイケル・マッサーによる曲。

「変わらぬ想い」という日本語タイトルの通り、幸せ絶頂の二人を歌った曲で結婚式にもピッタリ。歌詞もメロディも甘々で、ソウルフルでありながらもややメロウなジョージ・ベンソンの歌声に浸れる名曲です。

残念ながらジョージ・ベンソンのバージョンはあまり注目されませんでしたが、ハワイ出身の歌手グレン・メディロスがカバーしたバージョンはイギリスで1位、アメリカで12位の大ヒット。カバーバージョンはそれほど大きなアレンジの違いはありませんが、ショーン・メンデス風のイケメンボーカリストなので見た目重視の方はグレン・メディロスの方を検索してみて下さい(笑)

④ Never Gonna Let You Go (愛をもう一度) / Sergio Mendes (セルジオ・メンデス) 【1983年】

Best Of Sergio Mendes (ベスト・オブ・セルジオ・メンデス) - Sérgio Mendes (セルジオ・メンデス)
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セルジオ・メンデスの音楽のルーツは、子供の頃に習っていたクラシックピアノやブラジルの国民的音楽であるボサノヴァ。そこにジャズやファンクを織り交ぜた曲が特徴の、ブラジル出身のミュージシャンです。

昭和の歌謡曲のような雰囲気を持ったこの曲はEarth, Wind & Fireにも提供されたけど結局録音されなかった曲。その後セルジオ・メンデスにより発表され、アメリカのシングルチャートで4位を記録したヒット曲になりました。

60年代以降ヒットチャートから遠ざかっていたセルジオ・メンデスはこの曲のヒットで再び脚光を浴びることに。長いこと勘違いしていたんですが歌っているのはセルジオ・メンデスではなく、男性はジョー・ピズーロ、女性はリザ・ミラーという人です。

ディズニー映画アラジンの「ホール・ニュー・ワールド」、洋楽デュエットの定番「エンドレス・ラブ」とはちょっと違う、味のある古さを感じる大人のデュエットソングに仕上がってます。

⑤ Baby Come Back (ベイビー・カム・バック) / Player (プレイヤー) 【1977年】

Baby Come Back (ベイビー・カムバック) - Player (プレイヤー)
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1970年代の終わりごろに活躍したアメリカのバンド。スタジアムRock全盛期だったこともあって、ライブアクトとして人気でしたが日本での知名度はあまりないかもしれません。「Baby Come Back」はソフトでメロウなサウンドを軸にして、アメリカでは3週間連続で1位を記録したPlayerの大ヒット曲。

離れていった彼女に向けて、「ベイビー、戻ってきてほしい。どんな馬鹿だってわかる。全てのものが君を思い出させてしまうんだ」と歌うサビを持った歌詞は全体を通して具体的で感情移入しやすいです。

当時は空前のディスコブーム。歴史的大ヒット映画「サタデーナイトフィーバー」のサウンドトラック(1977年11月15日に発売)が、24週連続1位という驚異的な売り上げを記録していた時代。そしてこのサウンドトラックに多くの曲を提供し、飛ぶ鳥を落とす勢いだったのがビージーズです。

そのビージーズの「How Deep Is Your Love」をシングルランキングのトップから引きずり下ろしたのがPlayerの「Baby Come Back」。しかしその後すぐまたビージーズの「Stayin' Alive」がトップを奪い返す。

当時の音楽シーンはかなり盛り上がったんじゃないでしょうか?

⑥ Sailing (セイリング) / Christopher Cross (クリストファー・クロス) 【1980年】

Very Best of Christopher Cross (ベリー・ベスト・オブ・クリストファー・クロス) - Christopher Cross
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日本では「ニューヨーク・シティ・セレナーデ【原題:Arthur's Theme (Best That You Can Do)】で有名なアメリカ出身のシンガーソングライター。「Sailing」は1979年に発表されたデビューアルバムに収録されたシングルで、全米で1位を獲得。10代の若者が、これから待ち受ける試練と苦難から逃れたいと思う気持ちを航海に例えたような歌詞になっています。

この曲は私がまだ高校生の頃、ロッド・スチュワートが歌ってイギリスで1位になった同タイトルの「Sailing」と勘違いして借りてしまい、ガッカリした曲。だけど大人になって改めて聴いてみたら、夏のそよ風に吹かれているようなメロディと繊細で線の細い美しい響きのハイトーンボイスにビックリ。月並みな表現だけど、心が洗われるようでした…。

このアルバムとシングルで、世界で最も権威ある音楽賞のひとつであるグラミー賞において史上初の主要4部門を独占したというAORを代表するバラードです。ちなみに主要4部門は、【最優秀アルバム賞】【最優秀レコード賞】【最優秀楽曲賞】【最優秀新人賞】の4つ。この4部門を同時受賞するアーティストは1981年のクリストファー・クロスの次は、2020年のビリー・アイリッシュまで出てきません。

意外と受賞が難しいのが最優秀新人賞。ワンチャンスでそれを逃したらもう2度と受賞はできませんからね…。この時のクリストファー・クロスが受賞した最優秀アルバム賞は、これまた歴史的名盤であるピンクフロイドのザ・ウォールを破っての受賞だっていうのもすごい。

⑦ Lost In Love (ロスト・イン・ラブ) / Air Supply (エア・サプライ) 【1980年】

THE BEST OF BALLADS (ザ・ベスト・オブ・バラード) - AIR SUPPLY (エア・サプライ)
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ペパーミントサウンドと呼ばれる爽やかな曲調と、ラッセル・ヒッチコックの透明感のあるハイトーンボイスで人気を博したオーストラリアのバンド。

「Lost In Love」はアメリカで3位になったシングル。夏のイメージを持ったバンドという先入観を抜きにして聴いても、穏やかに風が吹く夏の浜辺を思い浮かべてしまうような、清々しい雰囲気を漂わせた曲です。

この曲はずっと低めの音程で歌ってるけど最後のサビだけ一気に高音になります。最後まで夢うつつな感じで聴いていたい人には賛否両論あるかもしれないけど、個人的にはドラマチックに盛り上がるこのアレンジが好み。

でも私がこの曲の中で一番好きな部分は最後の大サビじゃなくて、「You know you can't fool me ~」のパートですね。

⑧ I'll Be Over You (アイル・ビー・オーヴァー・ユー) / TOTO (トト) 【1986年】

40 TRIPS AROUND THE SUN : GREATEST HITS (グレイテスト・ヒッツ) - TOTO(トト)
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多くのミュージシャンがカバーしている「We’re all alone」が収録されているボズ・スキャッグズの名盤「シルク・ディグリーズ」。その演奏に参加したスタジオミュージシャンがもとになって結成されたアメリカのバンドがTOTOです。

TOTOはボーカリストがいるにもかかわらず、キーボード、ギターがリードボーカルを取ることが多い珍しいバンド。TOTO最大のヒット曲である「Africa」もキーボーディストのデヴィッド・ペイチが歌っています。

専任のボーカリスト自体が変わることも多く、これだけ世界的なバンドでボーカリストがすぐに変わっても受け入れられ続けているのは、海外のバンドならではかもしれません。1978年のデビューアルバムから2015年までに少なくとも10人以上が代わる代わるボーカルを務めてるって…すごいですね。

「I'll Be Over You」は全米で11位を獲得した、都会的でロマンティックな匂いのするバラード。この曲ほど、昼のオレンジと夜の青が入れ替わる黄昏時の風景に合う曲はなかなかないと思います。

当時、別れた彼女を思い出しながらこの曲ばかり聴いていた時期があったのはいい思い出。かなりゆったりなテンポで、歌詞も少なめなんだけど決して退屈することなくムーディーな気持ちに酔えるAORの名曲です。

余談ですが、ボズ・スキャッグズの「We’re all alone」は世界中で愛されている名曲だけど、もともとは「Lido Shuffle(リド・シャッフル)」というシングルのB面でした。

⑨ Everytime You Go Away (エヴリタイム・ユー・ゴー・アウェイ) / Daryl Hall & John Oates (ダリル・ホール&ジョン・オーツ) 【1980年】

The Essential:エッセンシャル (ベスト) - Daryl Hall & John Oates (ダリル・ホール & ジョン・オーツ)
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ホール&オーツは、ブルーアイドソウルのジャンルで最も成功したと言っても過言ではないほどのアメリカのデュオ。ただ、音楽に国境はないという思いが強いダリル自身は、人種差別ともとらえられかねないブルーアイドソウルという呼ばれ方はあまりよく思っていなかったらしいです。

ホール&オーツの7枚目、8枚目のアルバムのプロデューサーはエアプレイ、シカゴでお馴染みのデイヴィッド・フォスター。そして9枚目にして初セルフプロデュースとなったアルバムに収録された「Everytime You Go Away」ですがシングルカットはされていません。しかし、1985年にイングランド出身のポール・ヤングによってポップロック風にカバーされたバージョンがシングルとして発売され、全米1位、全米4位の大ヒットを記録しています。

この曲はしっとりと落ち着いた演奏とは対照的に、ダリルのソウルフルで感情豊かなボーカルが際立つ立体的なバラードです。控えめな演奏の中でずっと流れているオルガンの音色がこの曲をさらに特別なものにしている感じがします。曲の後半の「everytime you go away ~」の繰り返しでは、これぞホール&オーツ的なハーモニーがちゃんと満喫できるのも魅力ですね!